全身性浮腫と下痢・貧血がひどくて6月29日に亡くなったセリちゃんの経過とその考察をまとめました。治療中は原因が分からず、対症療法に終始しましたが、後から考えるとこんなことではなかったかと思います。 |
<2007年> | |
9月16日 |
太ったのか、喉の辺りが腫れているのか、気になる。(セリちゃん:右) 寝ていると顎の下に座布団を敷いているように見える。 この頃から、昼間はメタハラの下でほとんどじっとしている。 |
11月13日 |
ピロちゃんとフェリちゃんの看病に明け暮れたため、セリちゃんは様子見。 ただ、以前、いぐらさんのみどりちゃんが甲状腺腫の疑いでヨードを与えて腫れが引いたことがあったので、ひじきやアオサなどの海草を多めに与えてみたところ、気のせいか少し腫れが引いたようだった。 |
12月7日 |
初めて病院へ受診する。 海草類を与えてみて腫れが引いたようであれば、ヨードが効果的であるかもしれないとの判断で、ヨード入りのサプリメントを2週間与えてみて様子を見ることにする。 その間、喉の腫れは一進一退。 |
12月21日 |
喉の腫れは引く様子がなく、再度受診。 血液検査・レントゲン検査をするが、異常は見られなかった。 超音波検査は病院に設備がなくて出来なかった。 ヨード入りサプリメントは引き続き与えて、抗炎症剤(トランサミン・プロナーゼ)を平行投与してみる。 浮腫や貧血が見られたことから甲状腺機能低下症ではないかと思っていたので、ヨード剤を与えてよいものか尋ねたが、サプリメントで微量しか入っていないから大丈夫だと言われる。 甲状腺ホルモンの測定をすれば低下症か亢進症か判断が付くわけだが、イグアナの甲状腺ホルモン値のデータが無いことから測定しても判断ができないということだった。ホルモン剤の投与は間違った投与をした場合の副作用が恐いとのことで使用しなかった。 血液中の総コレステロール値など検査すればもう少し判断が付いたかもしれない。 喉の腫れというよりはデューラップの浮腫のようにも見えた。 この頃は食欲もあり、よく食べていた。 |
<2008年> | |
1月4日 |
喉の辺りの腫れ方が少し変わってきていた。 デューラップの中程まで浮腫のようになっている。 甲状腺ホルモン剤(チラージン)を2週間、微量投与してみることにする。 (本来は5T/dのところ1/2T/2d)規定用量の1/20という本当に微量である。 |
1月18日 |
デューラップの腫れは引いてきたが、体の浮腫は改善されていない。(セリちゃん:手前) 舌の色が白っぽく、貧血があると思われた。 食欲低下。葉っぱを口に突っ込めば食べる状態。 かなり以前から下痢が続いているので、漢方薬(桂皮加芍薬湯)を処方される。 抗炎症剤は止めてみる。 |
1月24日 |
水様性の下痢がひどい。
この頃、毎日、土を食べている。
喉の腫れがまたひどくなってきた。
抗炎症剤を止めたせいかもしれないと思う。 |
1月26日 |
抗炎症剤を再度、処方してもらう。 |
1月30日 |
下痢の状態は少し改善され、便の形が見える。 喉は相変わらず腫れている。 食欲はあまり無く、口に入れると食べる状態。 |
2月15日 |
喉の腫れが劇的に引いている。 ホルモン剤を1週間、毎日飲ませたためか、あるいは抗炎症剤の効果かと思う。 便の状態は形が出てきている。 |
3月13日 |
腫れはかなり引いてきた。 |
3月27日 |
首周りの腫れは引いたような感じなので、抗炎症剤は止めることにする。 便の状態は溶けたソフトクリーム状。 |
4月27日 |
首の右側がまた腫れてきている。 |
5月16日 |
便がさらさらの水様性の状態になっている。 大好きなオレンジも食べたがらない。 この頃から具合の悪いピロちゃんにかかりきりになったため、セリちゃんのケアが手薄になったかもしれない。 |
6月1日 |
全く食べなくなっている。 口に葉っぱを入れても食べないため、ジュースにして強制給餌にする。 フードは少しだけ自発的に食べようとしたが、すぐに止めてしまった。 |
6月2日 |
総排泄孔から半透明のゼラチン状のもの、直径3センチほどが逸脱した。 硬く、指で押し戻す。 喉はまたすごく腫れている。 病院へ受診した結果、逸脱したのは浮腫だろうということだった。 半年ぶりに血液検査をするが、肝パネルも腎パネルも異常なし。 浮腫の原因は腎臓ではないらしい。 浮腫がひどいので、ループ系の利尿剤(フロセミド)と甲状腺ホルモン剤(前回同様微量)を処方される。 乳酸菌入りサプリメントのニュートリバックを小さじ2/d飲ませ始める。 少し前から、歩けなくなってきていて、ドタドタ歩く。 獣医さんは浮腫で太って見えるが、筋肉は痩せてしまっているだろうから、筋力がかなり低下していてバランスが取れなくなっているとのことだった。 本当にそれだけ?と思う。体のバランスが保てなくてグラグラになっている。 この頃から日光浴に出るとずっと長時間太陽に当たっている。 |
6月13日 |
脊椎の真ん中辺りが少し硬く盛り上がっているのが気になり、レントゲン検査をしてもらう。 歩けなくなってきているのは脊椎に問題があるのかもと思っていたが、そうではなかった。 脊椎は異常なし。 腸内のガスが多い。 浮腫がひどいので、利尿剤を倍に増やすことにする。 水様性の下痢が全く改善されないので、漢方薬を別の発酵を抑えるもの(半夏瀉心湯)に変えてみる。 それとは別に自宅でニュートリバック小さじ2と鉄剤のサプリメントのペットチニック0.8mlを与える。 浮腫がひどいので、自分で動きづらいのか。 どんどん歩けなくなってきていて、抱くとまるで首の据わっていない赤ん坊のようにバランスが取れず、体はお豆腐のように軟らかい。 シッポもぶよぶよしてしまっている。 |
6月23日 |
体の浮腫がひどい。 朝、ひどい下痢だったのでお風呂に入れてキレイにして、日光浴(2〜3時間)をさせる。 漢方薬を変えたせいか、下痢の回数が1日数回から3回ほどに減る。 強制給餌は(野菜50g+水50g)をジュースにして与える。 一度には飲めないので、数回に分けて与える。 以前、抗炎症剤を平行投与した時に喉の腫れが引いたことを思い出し、この次に受診する時に処方してもらおうと思う。 |
6月25日 |
朝のお風呂と2〜3時間の日光浴が日課になる。 体を温めたいように見える。 喉の辺りの腫れは更にひどくなっている。 |
6月26日 |
朝の下痢は無く、この日は排泄は1回のみだった。 |
6月28日 |
下痢は1日に2回で落ち着いてきている。 |
6月29日 |
朝、排便なし。尿と尿酸のみ少しで、抱卵期のメスのように黄色い尿酸が混じっていた。 口の中が白っぽい。 顔色もいつもより白っぽい気がする。 喉はまた腫れていて、薬を包んだ葉っぱがなかなか飲み込めず、窒息しそうになる。 様子を見ていると、呼吸を止めている時間が多い。 その後で大きな呼吸をしている。 心配になったが、イグアナは時々、呼吸を止めることがあるので、様子を見ることにする。 強制給餌がなかなか飲めず、吐きそうになっているので時間を空けて与える。 餌が喉に詰まっていないか心配になり、抱っこをして様子を見ると、ぐったりして目を閉じていた。 一瞬、危ないかもと感じ、大きな声で名前を呼んでみるが、しばらく反応せず、まぶたを無理矢理開けたりして、ようやく意識が戻る。 その後、強制給餌の間に顔色を見ると、少し赤紫の色むらがあるようで、ひょっとするとチアノーゼなのかと心配になり、写真を撮っておくことにする。 病院に連れて行こうと思ったが、取りあえず強制給餌を済ませることにする。 強制給餌を与えて、しばらくして戻ってきてみると少し吐いていた。 口の中を確認すると飲み込めているようだったので、さらに強制給餌を少し入れる。 しばらくして見ると先ほどよりももっと吐いていた。 その後、急にぐったりして呼吸が止まってしまった。 蘇生を試みるも、呼吸は戻らず夕方死亡した。 |
7月3日 |
セリちゃんの慢性の下痢と貧血、浮腫は腸炎だったのではないかとも疑ったので、剖検をお願いした。 胃の噴門部に2.5cmほどの腫瘍があった。死後、時間が経過しているために組織検査はできなかったが、悪性腫瘍の可能性があった。肝臓の1/3ほどが変色しており、表面には数ミリの腫瘍の転移と思われるものが数カ所見られた。甲状腺は腫脹や結節もなく、正常ではないかと思われた。 |
爬虫類の腫瘍に関する情報はかなり少なく、また消化器系の腫瘍の情報は限られている。 セリちゃんの場合も、剖検で胃噴門部の腫瘍が発見されたが、解剖してみなければ分からなかったことである。組織検査ができなかったため、良性か悪性かは不明であるが、肝臓への転移が見られたことや肉眼所見から悪性である可能性が高いということだった。 セリちゃんの胃の噴門部にできていた腫瘍が悪性腫瘍であると、吸収不良と蛋白漏出性胃腸症を起こしていた可能性があると思われる。 最初の受診時、12月21日の血液検査ではアルブミンとナトリウムが若干低値で、カリウムは若干高値だった。カルシウムは正常範囲であったがその中でも低めであった。 総蛋白質は正常範囲内であったが、慢性的な下痢で脱水していたことを考えると、本来は低値であったと思われる。 胃のカルチノーマの続発性の吸収不良症候群として、下痢と浮腫、貧血の症状が出ていたのではないかと思われる。 また、胃の潰瘍性病変あるいは悪性腫瘍による蛋白漏出性胃腸症でも、浮腫、下痢、悪心が見られ、低蛋白質、低カルシウム、鉄欠乏性貧血が症状として出てくる。 当初、喉周辺の腫れが目立ったため、甲状腺機能の異常かと思われ、ヨード入りサプリメントとごく微量の甲状腺ホルモン剤の投与後3ヶ月ほどで一時的に喉の腫れは緩解している。抗炎症剤が一時的に胃腫瘍に作用したことも考えられる。 その後は、全身性の浮腫と慢性的下痢、極度の貧血が改善されなかった。 治療開始から5ヶ月後、四肢の筋力の低下が激しく、這って歩く状態となり、上体を起こせず、首の座らない赤ん坊のようになり、重度の筋無力症のように感じられた。 治療開始から死に至るまで約6ヶ月半であったが、最後の1ヶ月は全身性の浮腫が相当ひどくなったため、利尿剤を使用したが、効果がなかった。 治療開始以前より下痢が見られたため、桂皮加芍薬湯を4ヶ月、半夏瀉心湯を1ヵ月近く継続服用したが、甘草による偽アルドステロン症を引き起こしていたことも考えられる。尿中カリウムの排泄量や血圧などの確認ができていないので、あくまで推測の域を出ないわけであるが、最後の利尿剤の効果がなかったことからも、その可能性はあると思われる。甘草による偽アルドステロン症の副作用は希であると報告されているが、当初より低栄養状態で浮腫が見られたのだから、副作用を起こしたことも十分考えられる。特に低カリウム血症によるミオパチーで、最後の頃の重症筋無力症のような状態になったのではないかと思われる。 6月の血液検査ではリンの値が低値であったことからも、筋力低下、昏迷状態が見られたことは当然だったとも言える。 甲状腺機能低下症、あるいは甲状腺機能亢進症、悪性胃腫瘍、そして偽アルドステロン症、それぞれが逐次的に併発した可能性も考えられるだろう。 犬や猫などの悪性胃腫瘍では、診断時にすでに進行していること、転移が多いことなどにより、一般的に予後不良ということである。原発性胃悪性腫瘍症例の生存期間は6ヶ月未満という文献もある。 セリちゃんの場合も初回受診時より約6ヶ月後の死亡であった。 ペットの死後、剖検されることはまだまだ少ないが、少しずつでも症例数が増えて解明されていくことを切に望む。 |