渡辺さんがイグアナのムーチとラルゴをアメリカから日本へ輸送されたご経験をレポートにしていただきました。
皆さんも国外へイグアナを輸送することがあるかもしれません。そんな時のために少しでもお役に立てれば幸いです。

日本に連れて行こう計画

 留学先のロサンゼルスから日本へ数ヶ月間帰国することが決まり、それに伴い我が家のイグアナ2頭(ムーチー&ラルゴ)を日本に輸送する計画が始まったのは2004年1月でした。それから2ヶ月半、初めてのことで奮闘しつつも、2頭を日本に連れて帰るまでの道のりが始まりました。


911のテロの影響

 この計画を立てた当初、私の予想では全ての行程も2ヶ月程あれば十分な期間と考えていました。しかし実際には、後半の大慌ての期間を入れても全行程2ヶ月半を費やしてしまうことになったのです。この予定のズレの大きな原因は、9・11にNYで起きたテロの影響による航空貨物輸送の規制によるものだったのです。このテロ事件以降、個人ペットオーナーによる航空貨物は制限され、Known Shipperと呼ばれる過去に輸送実績のある輸送代理店、またはショップのオーナーを通してのみでしかペットを輸送することができなくなったのです。このため、必要書類に関しては、当初の予想よりはるかにスムーズに揃えることができたのですが、貨物の予約に伴う規制や手順に足をひっぱられてしまった形となったのでした。


CITES輸出許可書:アメリカ側

 イグアナをアメリカから輸出するためにまず始めに必要なことは、アメリカ側からCITESに指定されている動物の輸出許可証を取ることでした。CITESに関する各種許可証発行を管理しているのは、バージニア州に本部を持つ Fish and Wildlife という政府機関で、まずはここへ必要な以下の書類を送ることとなりました。

●『輸出入許可証申請書の原本』

Fish and WildlifeのHP http://www.fws.gov/ からダウンロード可能。

●『イグアナがどこからきたかを証明する書類』

イグアナがどこから来たのかを証明する書類には、いくつかの状況が想定されています。ペットショップから購入された場合、ブリーダーなどから譲り受けた場合、そして野生で捕まえられた場合などです。我が家の2頭のうち、ムーチーはショップから買った時の領収書のコピー、ラルゴはAnimal Shelterと呼ばれる日本における保健所から里親として引き取った時に支払った事務手続き料の領収書のコピーをそれぞれ提出しました。これら領収書のコピーは、イグアナを成田空港の税関で税金を支払って受け取るまで何度か必要になる大事なものです。私はこのコピーを成田の税関で提示することができなかったため(荷物のトランクに入れ、離れた場所にあったJALの荷物受け取りカウンターで預かってもらっていたため)、税金の計算にいろいろと手間取ってしまい、相当無駄な時間がかかってしまいました。

●『地域から発行された野生動物飼育の許可証のコピー』

ロサンゼルス市では、イグアナなどの野生動物を保持する場合、Animal Shelterで発行される許可証を持つことが義務付けられています。輸出ビザの申請には各地域で発行されている許可証のコピーも添付する必要があったため、これも添付することになりました。

●『輸入するイグアナの詳細:学術名、出産国、誕生日などを簡単に記述した別紙』

●『イグアナを安全に輸送できる知識と計画性があるかを説明した文章』

輸出許可書申請にはさらに、送り主がイグアナを安全に輸送できる知識と計画があるかを説明することも求められます。
抑えるべきポイントは:
 ・ 輸送に使用する箱(形状、サイズ、材質など)
 ・ 温度管理(長時間用カイロを適量使用する)
箱の内側
箱の内側
 輸送に使用する箱に関しては、現在International Air Transport Association(IATA)で輸送される各動物ごとに詳細が指定されていて、この詳細の書かれた文章のコピーは、各航空会社の貨物部に問い合わせて自宅のFAXに送ってもらうことができました。当初、私がFish and Wildlifeに提出した文章では、箱はYILの江黒さんの輸送レポートを参考にして、発泡スチロール製のものを使用する予定でした。しかしこれは現在では輸送に使用できません。
 実際に私が輸送時に使用した箱はIATA指定の爬虫類用の木でできたものではなく、犬の輸送用のプラスチック製の箱でしたが、これも規格内とのことでOKでした。箱の内部は、イグアナが暖を取れるようにするためと、輸送時の衝撃を和らげるために厚さ3.8cmほどの発泡スチロールの板で上下左右全て塞ぎました。この発泡スチロールの壁に適切な数の空気穴を開けることと、カイロをいくつ入れれば貨物室内でイグアナにとって快適な環境を保てるのかをテストすることが課題でした。これには2日ほど費やしました。発泡スチロールの板は、Home Depotと呼ばれるホームセンターで見つけ、カイロは40時間もつものをインターネットで通販をしている爬虫類ショップから入手しました。空気穴の開いた発泡スチロールに覆われた箱の内部には、縦長に切った新聞紙とキッチンペーパーを敷き、糞をしても水分を吸い込むようにしました。カイロは、箱の床の面にある発泡スチロールの板にキッチンペーパーを2枚巻き、布製の強いガムテープで外れないように固定することで安定を保つことができました。そしてキングサイズの枕カバーの中にそれぞれのイグアナを入れ、箱の中に入れるという設定です。こうすることで空気穴から尻尾を出したりして怪我をすることを防ぐと同時に、視界を狭めることでイグアナを落ち着かせるためです。
イグアナを入れた様子
イグアナを入れた様子
 テストでは、イグアナの代わりに温度計を入れ、何らかの原因で貨物室内の温度が低くなった場合と高くなった場合を想定して行う必要があったため、日夜を通して行いました。カイロの数と空気穴の数のバランスは意外に難しく、箱の大きさによっても大きく左右されるので適正な数は実際にテストしてみないとわかりません。私が実際にこの環境テストを行ったのは、日米両国から輸入・輸出許可証の両方を得たあと、動物輸送の代理店を通して貨物の予約を始めた段階からでした。これもテロの影響のひとつで、貨物内の温度についてはKnown Shipperのみにしか教えてくれなかったからです。

 これらの書類をU.S. Fish and Wildlife Serviceに申請料25ドル分の小切手と共に郵送しました。書類が相手に届いてからは毎日電話で状況を確認し、そのためもあってか送付した書類があちらに届いてからわずか1週間で発行されました。当然ながら相手からあまりいい顔はされませんでしたが、通常では1ヶ月ほどかかると言われたためにやむを得ず(?)でした。


輸入許可書:日本側

 アメリカ側からの輸出許可証を得たら、次は日本からの輸入許可書を得なければいけません。さっそく、東京通商事務所の総務課へ問い合わせると、アメリカの私の自宅へとFAXで必要書類のリストを送ってもらうことができました。ここで必要な書類や手順は、輸出許可証の申請の時とほぼ同じだったため随分と簡単に済みました。輸入許可書の申請書の原本に、アメリカから発行された輸出許可証のコピー、そしてまた輸出許可証に添付したレシートのコピーも添付し、国際速達で送り、相手方へ書類が届いたことを電話で確認してから10日ほど過ぎたころ、東京の自宅へと輸入許可証が輸送されてきたとの連絡が父から私のところへ来ました。


貨物の予約

箱の内側
 

 あとは貨物の予約だけだ、と安心しきっていた私でしたが、ここからが大慌てだったのです。はじめに述べたように、9・11のテロ事件以降、貨物輸送の予約は個人を通してはできなくなり、Known Shipperを通すのみが手段となりました。貨物の予約はどの航空会社も10日から1週間前からの受付のみのため、私は当初日本に発つ予定のだった日の1週間前、貨物の予約しようと電話した航空会社にそのことを告げられ、愕然としました。そこから数日、インターネットや電話帳で大慌てで調べた結果、ロサンゼルスに支店がある動物専門の引越し業者がイグアナの国際引越しを引き受けてくれることを知りました。業者には、輸入・輸出の許可証共に取得済みであとは貨物の予約だけであることを伝えました。あとで知ったのですが、業者を通すケースでは、私のように許可証が取得されいるた場合でも、1ヶ月以上は余裕を見てするのが普通のようでした。しかしここではそんなことは言ってられません。ところが困ったことに、この業者の対応がイマイチ悪く、こちらからしつこく毎日電話をして確認や指示をしなくては一向に事が進まなかったのです。それでも様々なペーパーワークのやり取りをした2週間後、やっとのことで業者側からの推薦と私個人の経験から、シンガポール航空の貨物を予約することに決まりました。ここで初めてシンガポール航空貨物室内の温度を業者を通して知ることができました。シンガポール航空は、貨物室内の動物のいる区域の温度調整を行っていて、そこは26度の快適な温度が保たれるようになっているとのことでした。ここで輸送のための箱を業者のロサンゼルスの支部へと受け取りに行き、環境テストを行い、万全の体制を整えました。
 貨物予約の最終段階のひとつとして、航空会社は申告された受け取り人(私の場合は父)に連絡をつけ、受取の意思があるかの確認をする必要がありました。つまり、私が同じ飛行機に乗って、到着地で自分で受け取るといっても、このような場合では受取人の確認が現地でできないために予約をすることはできません。必ず、日本にいる人に受取人になってもらわなければいけないのです。
 そんなこんなで貨物の予約も完了し、最後に出発日から10日以内に発行された国際健康診断書(Certificate for International Movement of Small Animals)を取りにかかりつけの病院に行き、さていよいよ輸送その当日になりました。


当日

 当日は餌を与えず、出発6時間ほど前に業者の人がイグアナを受け取りに来るぎりぎりまでいつもどおりに外で遊ばせていました。できるだけイグアナを箱に閉じ込めておく時間を短くしたかったのです。輸入・輸出許可証、それぞれの健康診断書を業者の女性へ渡し、Air Way Bill番号をもらってあとは業者の車へイグアナの入った箱を載せました。我が家のイグアナを受け取った彼女は、このあとロサンゼルス空港のシンガポール航空カーゴ施設でFish and Wildlifeによる点検を受けるなどの行程を済ませました。同じ便に搭乗の私は、あとは成田までしばしのお別れでした。


受け取り/成田空港貨物地区

 成田空港に降り立った私は、待ち合わせていた父と空港から20分ほど歩いた場所にある、貨物地区へとムーチー&ラルゴを受け取りに行きました。ロスの空港では、搭乗前にシンガポール航空に電話で積み込み確認をしたのですが、とても心配でした。到着した日は3月でも暖かい日の夕方でしたが、手続きをしている間にも日は落ち、外気は肌寒くなってきたため、貨物区域の外に置かれているムーチーたちを考えると、気が気ではありませんでした。先ほど述べたように、税関で領収書のコピーを提示することができなかったために、税金申告に大変手間取ってしまいました。貨物地区内のいくつかのビルを何回か往復し、2時間半ほどかかって、やっとムーチーとラルゴに対面することができました。


私の経験からの注意点など

 今回、実際に私がイグアナの輸出入をしてみて、いくつかの失敗点なども含めて参考になるかと思う注意点を挙げたいと思います。

 我が家の2頭のイグアナが日本へ来てから、2ヵ月半が経ちます。すっかり日本の環境にも慣れ、窓際で日光浴する2頭を見ると、あの大変なプロセスも何のことは無かった気がします。しかしながら、911のテロ以降、各方面でさまざまな問題が出てきました。コンパニオンアニマルと共に暮らす人にもその影響の一端がかってきています。手続きが以前と多少変化したこともありますが、その費用も壁となるケースがあるでしょう(私の場合、全て合わせて2頭を輸送するのに13万円ほどかかりました)。
 現在、日本からアメリカへ輸送する手続きも始めた段階ですが、こちらから送る場合も、業者を通して行うことが必須になったようです。
 私のレポートは、今後、アメリカから日本へのイグアナの輸出入を行うつもりのある人に、少しでも情報提供になれればと思っています。私の経験に基づく情報を詳しく知りたい方や、今後このような輸送の予定がある方で情報のほしい方は、どうぞ遠慮なく私(渡辺)までメールしてください。
◆メールアドレス:mrsgromit@gmail.com