イグアナは熱帯に棲む生き物です。日本の気候では夏を除いて基本的に生きていけません。熱帯の生き物を環境の全く違う日本で飼うにはとても手間がかかります。毎日1時間はイグアナの世話に時間がかかります。また、それなりの設備もいりますので費用がかかります。まず、そのことを覚えておいてください。
 熱帯に棲む生き物ですから、具合が悪くなったり病気になったりすることもあります。近くにイグアナを診てもらえる獣医さんはいるでしょうか?イグアナを飼い始める前に獣医さんを見つけておきましょう。イグアナが具合が悪くなってから探すのでは間に合わないこともあります。イグアナを診てくださる獣医さんはまだまだ少ないので、車や電車で2時間以上もかけて獣医さんに連れて行かなければならないかもしれません。
 イグアナは成体では1m80cm近くまで成長します。こんなに大きくなっても飼えますか?植物用の温室(最低でも840×450×1500mm以上のサイズのもの)で飼うか、一部屋ごと温室のように暖めるかして飼う必要があります。
 イグアナは草食の生き物です。いつも新鮮な野菜をたっぷり与えなければなりません。また、その他にもカルシウム剤や栄養剤を与える必要があります。それらの食費にも結構費用がかかります。
 イグアナは普通は人に噛みついたりはしませんが、鋭い爪を持っているので、生傷が絶えません。また繁殖期のオスでは攻撃的になって噛みついたりする個体もいます。2m近くまで成長したイグアナが攻撃的になっても面倒を見られますか?
これらの事を十分に理解した上で、イグアナを買う前にまずイグアナが生活できる環境を整えてあげてください。
かわいいイグアナを買うのは一番最後です。

●イグアナってどんな生き物?

 イグアナは中南米の熱帯雨林に生息し、樹上生活をしている草食の生き物です。昼行性の生き物で日中は木の上で日光浴をしています。樹上で行動をすることがほとんどで、高い場所を好みます。変温動物のイグアナは体温が上昇しないと食べたものを消化できません。日光浴を十分にすると食事の時間になります。イグアナは完全草食の生き物です。植物の若芽や柔らかい葉っぱを好んで食べます。雨期の植物が沢山ある時期に十分の栄養を蓄えておいて、乾期で植物が少なくなると繁殖のシーズンになります。日本で飼われているイグアナでも、湿度が低くなる晩秋から初春にかけてが繁殖シーズンになることが多いようです。
 人工飼育下では緑黄色野菜を主食として与えます。ほうれん草とキャベツ、ブロッコリーはあまり与えてはいけません。カルシウムの体内への吸収を妨げたり、甲状腺の機能を狂わせたりします。果物は大好きですが、これも野菜の1/10くらいの量が望ましいです。特にバナナは大好物となり、1本ごと食べてしまうイグアナもいますが、なるべく少しにした方が健康のためにはいいでしょう。バナナとともに大好きになるものにパンがありますが、これもあまり与えてはいけません。イグアナはもともと草食なのでパンはバターなどの脂肪が入っていたりしてカロリーが高く、好ましくありません。ドッグフードやチーズなど、与えればほとんど何でも食べてしまいますが、それを続けていると腎臓や肝臓を悪くして寿命を縮めてしまうので、脂肪の多い物や動物性のタンパク質の物を絶対に与えてはいけません。イグアナが大好きな物はご褒美にほんの少し与える程度にして、野菜をメインに育てるのが健康を保つことになります。
 イグアナはとても頭のいい生き物です。人の顔を識別し、自分の名前も覚えます。清潔好きでトイレの場所も決めることができます。とても目が良く、色も見えているので洋服の模様などに反応することがあり、嫌いな模様だとパニックになるイグアナもいます。好奇心が強く何にでも感心を示し、声帯が無いので鳴き声は出ませんが、表情が驚くほど豊かで人間に対して意思表示もします。出入り口を覚えて、自分で開けて外へ出て行きます。(気をつけないと脱走事件になるわけです。)イグアナは爬虫類ですが犬や猫と劣らないほど人間の生活に順応し、一度人間に馴れてしまうとこれがトカゲかと驚くくらいベタ馴れになり、飼う人の人生観を変えてしまうほどのコンパニオンアニマルとなりうる生き物です。警戒心も強く見知らぬ人には威嚇したりします。人に噛みつくことはあまりありませんが、恐怖を感じたり威嚇したりする時には噛みつくことがあり、剃刀のような歯をもっていて、縫合が必要なほどひどい傷になることもあるので、人に馴れていないイグアナや興奮しているイグアナに近づく時には注意が必要です。イグアナは幼いお子さんが急に大きな声を出したり、不意に思いもかけない動作をすると恐怖を感じることがあるので、お子さんが不用意にイグアナに近づいてなでたりしないように気をつけてあげてください。
 動物を飼う場合に注意しなれけばならないことがあります。それは人畜共通感染症(ズーノーシス)で動物から人間にうつる病気のことです。イグアナでもそれは例外ではなく、サルモネラ菌の感染症を起こすことがあります。普通の健康な大人の方ではそれほど神経質になることはないと思いますが、免疫不全の方や抵抗力が低いお年寄りや幼児のいる家庭では注意が必要です。主にイグアナの糞便から感染して食中毒のような症状を引き起こし、重い場合には命に関わってきます。これは手を洗うことで防ぐことができますので、イグアナを触った手では物を食べない習慣をつけ、イグアナの糞便は頻繁に掃除をして清潔にしておくことが大切です。

 

●イグアナを飼い始める時に必要なものとおよその費用

・温室(840×450×1500mm以上のサイズ)¥27,000〜
・紫外線灯(トゥルーライトやビバリウムグローなど)¥5,000×2本
 蛍光灯ソケット ¥2,700×2本
・バスキングライト(60〜100w) ¥1,500×1個
 ソケット ¥2,500
・お腹を暖めるためのプレートヒーター ¥5.000〜
 (石型ヒーターは低温やけどの可能性があり、お勧めできません)
・ 温室用ヒーター ¥11,000 またはひよこ電球 ¥3,000位×2個
・サーモスタット ¥8,000
・最高最低温度計(日中34℃位、夜間26℃以上が必要です。) ¥3,500
・加湿器(ヒートレス式、気化式のものが湿度の低い冬は必要です。) ¥18,000〜
・24時間タイマー(ランプ類のオン、オフを自動管理します。) ¥5,000
・栄養補助剤/カルシウム剤(ビタミンD3入りのもの) ¥1,500
 総合ビタミン剤(レプカル社のハープチバイトなど)¥2,000 
 ニュートリバック(爬虫類用整腸剤)¥2,000

 以上で、合計すると ¥100,000以上になってしまいます。とても費用がかかるということが分かります。
ペットショップなどでは温室のかわりに60cm水槽でもいいと言われるところも多いと思いますが、60cm水槽が使えるのは最初の半年くらいです。それ以後は温室が必要になりますから、できれば最初から温室の方がいいでしょう。水槽では世話をする時にイグアナの上から手を入れることになるので、人に馴れていないイグアナでは恐がらせてしまうことになります。

●イグアナを手に入れる

 ペットショップでイグアナを購入するときは、きれいな緑色をしているか、暖かいバスキングスポットでくつろいでいるか、活発に動いているか、餌をよく食べているかなど観察してください。体色が黒ずんでいたり、痩せていたり、動きがにぶい個体では体が弱かったり病気である可能性もあります。
イグアナが家に来て少し落ち着いたら、獣医さんで検便をしてもらいましょう。寄生虫がいると食欲が落ちて、食べなくなります。
 最近ではネットなどで里親を探しているイグアナもいますので、そちらでも探してみてください。人に馴れていること、設備なども一緒に譲ってもらえるかなど確認してください。
イグアナは幼体の内は雌雄の判別ができません。生後1歳くらいにならないと分からないことが多いです。イグアナのオスは2匹一緒に飼えないので、可愛いからといって最初から2匹のイグアナを購入するのは危険です。成長したオスはなわばり争いをするために、互いの姿が見えただけでどちらかが死ぬほどのケンカをすることあります。別々の温室で姿が見えないようにして飼うか、全く別の部屋で飼うかする必要があります。イグアナを多頭飼いしたい場合は、まず1匹目がメスであれば次はオスでもメスでも大丈夫ですが、1匹目がオスの場合には2匹目もオスになることを避けなければなりませんから、2匹目のイグアナは幼体のうちからは飼うことができません。ある程度成長していて確実にメスだと分かっている個体に限って飼うことができます。

●イグアナの住環境で注意すること

 イグアナは樹上生活をする上に、成長して2m近くにも大きくなりますから、イグアナを飼うには高さと広さが必要になります。
 自然界にいるイグアナはミネラルなどの摂取のために土を食べたりします。観葉植物の鉢を入れると、その土を食べることがあります。砂や小石を飲み込んだ場合にはそれらが消化管に詰まって死ぬ場合もあり危険です。食べるための鹿沼土か黒土を別の器に用意してやると植木鉢の土は食べなくなるでしょう。また、観葉植物は食べると毒なものが多いので注意が必要です。食べても安全な観葉植物ではハイビスカスやペチュニアを好んで食べるようです。
イグアナは清潔好きな生き物なので、排泄物や腐った餌など残さないようこまめに取り除いてください。水槽や温室の床材には新聞紙やペットシーツがメンテナンスが簡単でしょう。
 イグアナはとても頭のいい生き物でトイレを覚えます。トイレの場所が決まった成体では温室の棚などにはバスタオルなど敷いてやるといいでしょう。ふわふわして手触りの良い物が好きなようです。

 

●温度とライトのこと

 イグアナを飼う上で環境温度とライトはとても大切なことです。
イグアナが日中健康に行動するためには常に32〜34℃の環境温度が必要です。夜は体を休めるために26〜28℃くらいに下げてやる必要があります。日本の夏では冷房をかけない限りはそれほど気にする必要はないかもしれませんが、夏以外の季節では人工的にこの温度環境を作ってやる必要があります。冬にこの温度を維持するのは結構大変です。水槽や温室の場合はひよこ電球や温室用ヒーターを入れてやります。40℃近くになるホットスポットも必要で、バスキングライトを設置してやります。体温が低い状態だと食べたものを消化できません。部屋で放し飼いにする場合には、エアコンなどを1日中つけることになります。また、イグアナは熱帯雨林にいる生き物なので湿度も50%以上であることが必要で、日本の冬では加湿器で湿度をあげてやらなければなりません。環境の湿度が低いと脱水症状になって腎臓に負担がかかり病気を引き起こします。
 自然界にいるイグアナは太陽光の紫外線を浴びることで体内のビタミンDを活性化してカルシウムを取り込んでいます。毎日太陽光を浴びることができない人工的な環境では紫外線を照射するライトを設置してやらなければなりません。紫外線の出るトゥルーライトやフルスペクトルライトを1日12時間くらい当ててやります。これが無いと体内にカルシウムを取り込むことができず、MBD (Metabolic Bone Disease) といわれる骨の代謝異常を起こして死に至ります。餌もカルシウムを多く含んでいる緑黄色野菜を主食として与える必要があります。日光浴を十分にできない環境では、ビタミンDが活性化されたビタミンD3を栄養補助剤として与える必要があります。ビタミンDは水溶性ではないので取りすぎると病気になりますので、与え過ぎには注意が必要です。(餌については「ごはん」の所をご覧ください。)暖かく日光浴ができる時には、なるべく日光浴をさせてください。太陽に当たって体温が上がると行動が活発になりますから、幼体では脱走に注意してください。
イグアナの視力はとても良くて、色も見えています。イグアナには第三の目と言われる目が頭頂部にあります。第三の目は直接脳に繋がっていて、様々な器官を刺激し、体の健康維持に影響を与えています。昼行性の生き物では昼と夜の状態を作ってあげることが大切です。夜も遅くまで明るい人間の生活につきあわせることは良くありません。健康を維持し、精神的ストレスを与えないためにも夜は暗くしてください。

●まとめ

 イグアナが穏やかな性格で元気に育つ秘訣の一つはなるべくストレスを与えないことだと思っています。イグアナと長年付き合っていると、段々とイグアナの感じていることが分かるようになってきます。イグアナと共に暮らし始めた方が必ず決まって口にするのは、イグアナと出会って人生観が変わったということです。それほどイグアナという生き物は素晴らしい生き物です。皆さんもイグアナの素晴らしさを発見してみてください。